医療安全に関する日本病院会の実態調査

松山健(常任理事) (2020年3月センターニュース384号情報センター日誌より)

「医療安全に係わる実態調査」公表

 一般財団法人日本病院会は、2019年12月、「医療安全に係わる実態調査」(令和元年10月付。同会医療の安全確保推進委員会 木村壯介委員長)を公表しました。
 調査は、医療事故調査制度が施行されてから3年が経過し、医療事故調査制度が始まる前の2014年に行った「平成26年度医療安全に係わる実態調査」結果との比較と制度施行後の医療安全に対する意識の変化を可視化し、現状の把握と問題解決に役立てること、を目的に実施されました。
 2018年11月30日現在、一般社団法人日本病院会に加盟する全医療機関2,480施設を調査対象として、2018年11月30日~2019年1月11日に、メールとファックスで調査票への回答を求める方法で実施され、589施設(回答率23.8%。2014年は892施設、回答率37.2%)から回答が得られたとのことです。

 

医療安全管理者が増加

 医療安全管理者(専従:80%以上従事、専
任または併任:20~80%従事)は、2014年と比較して80.6%から91.9%に増加し、管理者の人数平均も3.3名から5.3名へと増加しました。
 医療対話推進者(医療メディエーター)のいる病院の割合は、30.5%から54.2%に増加し、人数平均は3.8人から5.9人に増加しています。

医療事故調査制度対象事故の経験

 医療事故調査制度の対象となる医療事故またはその疑いのある事例を経験した病院は、204病院(34.8%)でした。
 経験した病院が、対象事故として届け出た事例数は273事例、検討はしたが対象外として届け出なかった事例は489~663事例(アンケートが3~6件と幅のある選択肢としていたため)とのことでした。
 届け出を行わなかった理由(複数項目の重複回答可能)は、比率の高い順に、「原病の進行による死亡」が52%、「予期できた死亡」が48%、「医療に起因しない死亡」が40.2%、「解剖・Aiで死因が特定できた」が25.5%、「相談先の判断」及び「その他」がともに10.8%、「家族(遺族)が納得もしくは家族(遺族)の希望」が9.8%でした。

外部委員の招聘

 外部委員の招聘は、都道府県支援団体協議会からの紹介が最も高く(43%)、病院の規模が大きくなるほど、自院から直接依頼する傾向が見られ(32%)、学会からの紹介はわずかでした(4%)。

調査報告後、損害賠償請求や訴訟となったか

 医療事故を経験したと回答する204の病院のうち、損害賠償請求や訴訟となった事例がなかったとの回答は54.4%、訴訟となったとの回答は7.4%、示談したとの回答は15.2%、無回答23%でした。

医療事故判断の基準(定義)について

 基準は「妥当である」との回答は、医療事故を経験した204病院(61.3%)とそれ以外の病院(63.7%)とで差は見られませんでしたが、「妥当でない」との回答数は、経験のない病院の5.6%に対し、経験した病院は18.6%と大きな開きがあり、医療事故の判断に苦慮した背景があるのではないかとの考察が示されています。

まとめ

 報告書がまとめるように、2014年時と比べて、医療安全に対する体制の整備が進んでいることはうかがわれ、事故調査を行うというプロセス自体が病院の医療安全管理の向上にプラスに作用しているとの評価も可能でしょう。1月の本稿でご紹介した日本医療安全調査機構の運営委員会の4年間の運営実績等と合わせて、見えてくる課題と改善に向けた議論が今後ますます活発になることを期待したいところです。