柄沢好宣(嘱託) (2020年4月センターニュース385号情報センター日誌より)
2019年年報公表される
2020年3月付で、(一社)日本医療安全調査機構(以下、「機構」)から、『医療事故調査・支援センター 2019年 年報』(以下、「年報」)が刊行されました。
年報は、機構のホームページ(https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/nenpou-r1-all.pdf)からどなたでも閲覧可能になっていますので、是非、ご参照ください。
依然として残る「報告」のハードル
医療事故発生報告件数は、合計373件であり、2017年以降、概ね横ばいの状況で推移しています。もっとも、センター合議において「『医療事故』として報告を推奨すると助言した」事例37件に対し、43.2%にあたる16件は医療機関において医療事故報告の対象とされていません(ただし、検討中のものも含む)。2018年度は、「『医療事故』として報告を推奨すると助言した」事例37件に対し、75.7%にあたる28件が医療機関において医療事故として報告されたことと比較しても、機構において報告を推奨すると助言されたものの半数弱にものぼる事例が医療事故として報告されていないことについては、率直に疑問を感じざるを得ません。
こうした未報告の事例の中には、適切に調査が行われることで、本制度の目的である再発防止につながるような貴重な事例もあるはずです。こうした事例を埋もれさせないための手当てが必要であろうと思われます。
解剖・Aiの実施状況
調査結果報告のあった364件のうち139件で解剖が実施されています(うち、病理解剖は102件)。2017年以降、司法解剖等も含め概ね40%前後で推移しています。Ai(死後画像診断)が実施された例を含めると、364件中208件(57.1%)で解剖またはAiが実施されてはいますが、解剖やAiが死因究明に極めて大きな役割を果たすことを踏まえると、やはりまだ低調と受け止めざるを得ないように思われます。
こうした中で気になったのが、100床未満の小規模医療機関においても、20%強の事案で病理解剖が実施されていることです(0床:3件・20.0%、1~19床:14件・23.7%、20~99件:14件・21.9%)。病床数が数百床規模になってくると病理解剖の実施割合も増える傾向にあるようですが、それでも40%前後であることと比較すると、意外と実績があるのだなと感じます。
本制度は、病床規模に関わりなくすべての医療機関が対象とされています。小規模医療機関においても適切に院内事故調査が行われるためにも、病床規模に関係なく病理解剖が実施できる体制を整備することが求められます。上記100床未満の医療機関における院内事故調査で行われた病理解剖全31件のうち、30件が他施設で実施されていますが、どのような連携体制があってこれが実現しているのかは、これからの制度運用を考える上で大変参考になるのではないでしょうか。