12年目を迎えた産科医療補償制度

堀康司(常任理事) (2020年5月センターニュース386号情報センター日誌より)

補償対象基準見直しの議論が本格化へ

 2009年1月に創設された産科医療補償制度は今年で12年目を迎えました。
 2009年から2019年の審査件数は3899件で、補償対象は2922件、対象外は968件(うち47件は2014年以降のため再申請可能)となっています。対象外の968例のうち、444件は在胎28週以上の個別審査で対象外とされた事例(例:臍帯動脈血pH≧7.1で、児心拍モニターも所定の状態を充たさない)です。
 同様の病態でも審査結果に相違が生じているといった課題があることを踏まえて、運営委員会は2018年に厚労省に対して改善を図るべきとする要望書を提出していましたが、ようやく今年度より、厚労省も制度見直しの検討を求めることとなり、今後は同制度を運営する日本医療機能評価機構が中心となって、補償対象基準の点を中心とした制度見直しの議論が本格化される予定です。

 

臨床経過の評価レベルは5段階に集約

 機構は今年4月に「原因分析報告書作成にあたっての考え方」の改訂版を公表しました。
 この改訂により、従来は「事例の概要」として箇条書きされていた情報は、「事例の経過」として表形式でまとめられることになります。
 また、これまで14段階で表現されていた臨床経過に関する医学的評価のレベルは、5段階に集約されることになりました。従来は「医学的妥当性がない」「劣っている」「誤っている」と評価されたものと「基準から逸脱している」と評価されたものの一部は、「医学的妥当性がない」という表現に集約されます。

 

要約版は約1/4が非公表に

 原因分析報告書の要約版の公表は2018年8月に一旦停止されましたが、2019年1月より、保護者・分娩医療機関・関連医療機関の同意のあるものに限って公表が順次再開されています。
 要約版の公表について、機構は、公衆衛生の向上という公益性と多数当事者からの同意取得の困難性に照らして、個人情報保護法23条1項3号の例外に該当し、同意は原則として不要であるとする認識を明らかにしています。しかし現状では、同意のないものは公表されておらず、その数は2019年12月末の時点で2509例中599例(23.9%)にのぼります。
 同意に関する案内文書が2019年7月に改訂された後、不同意例は140例中8例(5.7%)と減少し、同意取得状況に改善は見られるものの、制度趣旨からすれば、やはり全件が公表される必要があるはずです。

 

実効性ある改善に向けた期待

 同一分娩機関で発生した複数事案を分析した結果、従来の指摘事項に改善が見られないと判断された場合には、機構から分娩機関に対して「要望書」が送付されます。
 2019年12月末までに92件の要望書が送付されていますが、改善の実効性を高めるために、この4月からは、「要望書」を送付する分娩機関に対しては、日本産婦人科医会からの支援を受けて改善に取り組むよう強く要請していくという、医会と機構との連携を前提とした新たなスキームが始動することとなりました。
 再発防止に向けた積極性の見られない分娩機関に対し、医会が大きな役割を果たしていくことが期待されます。

 

家族にはなお重い負担

 昨年9月、機構は、補償対象児の介護実態のアンケート調査の結果を公表しました。1468名の保護者からの回答によって、児の母の半数が、ほぼ毎日15時間以上の世話を担当しており、母の33.0%・父の20.1%が転職を余儀なくされているという、脳性麻痺児介護の厳しい実情があらためて浮き彫りとされています。
 今後の見直しの議論の中では、こうした問題の解決に向けて、10年を超える制度運営を通じて集積された情報と経験を、より一層適切に活用していくことが強く望まれます。