柄沢好宣(嘱託) (2020年10月センターニュース391号情報センター日誌より)
「医行為」に関する新たな最高裁判例
医師資格を有しない者が業としてタトゥーの施術を行ったことが医師法違反に問われた事件で、本年9月16日、最高裁判所において、タトゥーの施術を業として行うことは医師法違反にならないとした原判決(大阪高判平成30年11月14日)は正当であるとの判断が示されました。
タトゥーが比較的身近にも普及していることもあってか、各種報道でも取り上げられるなど、注目されています。
最高裁の判断の枠組み
今回の事件では、医師資格を有しない者によるタトゥーの施術が、医師法17条に違反するかが問われました。
医師法17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定めていますが、ここでいう「医業」とは、一般に、「医行為を業として行うこと」であるとされています。
では、「医行為」とは何か、という議論になりますが、この点については、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」とするのが通説的見解であり、過去の判例においてもこの考えが踏襲されています(最判昭和30年5月24日、最決平成9年9月30日等)。
本件の第一審判決(大阪地判平成29年9月27日)も、「医行為」の解釈について上記のように解した上で、タトゥーの施術も医師が行うのでなければ皮膚障害等を生ずるおそれがあるとして、「医行為」に該当すると判断しました。
一方、控訴審では、「医行為」とは、「医療及び保健指導に属する行為の中で、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」であるとして、タトゥーの施術は医療及び保健指導に属する行為ではないとして、「医行為」該当性を否定しました。
最高裁判所も、「医行為とは、医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である」とした上で、これに該当するかは、「当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断するのが相当である」と判示し、タトゥーの施術は、「社会通念に照らして、医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く、医行為には当たらない」と結論づけました。
最高裁決定による影響
原審及び最高裁は、医行為に関するこれまでの通説的見解に、「医療及び保健指導に属する行為」の範疇であるかという視点を加えていますが、これまでの通説的見解の趣旨を敷衍したものであって、これを根本的に変更したというものではないように思われます。
もっとも、近時では美容の領域を中心に、人体への侵襲を伴うように思われる施術が度々見受けられます。従前の判断枠組みであれば、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれ」があると認められれば、医師法による規制の対象となるはずのところ、「医療及び保健指導に属する行為」という要素が加わったことで、こうした施術に関する規制についてどのように変っていくのか(あるいは特に変らないのか)、引き続き注目していきたいところです。