医療情報等の共有に向けての環境整備(第4回健康・医療・介護情報利活用検討会)

松山健(常任理事) (2020年11月センターニュース392号情報センター日誌より)

検討会実施

 2020年7月の本稿で、医療情報等の共有に向けての環境整備に関して厚労省の設置する各検討会の検討状況と、健康・医療・介護情報利活用検討会(2020年6月15日に第3回会議を開催)が中心となって一本化した議論を進めていることをご報告しました。
 2020年10月21日、第4回の健康・医療・介護情報利活用検討会が、第3回医療等情報利活用WG及び第2回健診等情報利活用WGとの合同開催の形でオンラインにて実施されましたので、ご報告します。
 2020年7月の本稿で、医療情報システムの分野で用いられるEMR、EHR、PHRという用語をご紹介しましたが、カルテの電子化の理解に有益なので、改めてこの用語を簡単に説明します。

EMR、EHR、PHR

 EMR(電子医療記録:Electronic Medical Recordの略)とは、電子カルテシステムを中心とした医療機関内部の情報システムに蓄積された診療情報を指します(院内で使用することを目的とした電子カルテシステム(狭義の電子カルテ)のことです)。
 EHR(電子健康記録:Electronic Health Record
の略)とは、複数の医療機関のデータを一元管理して、ネットワークを活用して、国民一人一人の生涯にわたる健康・医療・介護に関する情報を電子的に記録・蓄積し、患者のQOLの向上を図るEMRの延長としての生涯型電子カルテ(広義の電子カルテ)のことです。
 PHR(個人健康記録:Personal Health Record
の略)とは、患者が主体となってネットワークを活用して、自らの患者データを管理するシステムのことです。

3つの「ACTION」

 検討会では、2020年7月のデータヘルス改革に関する閣議決定を受けて「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」の3つの「ACTION」(ACTION1:全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大(上記のEHRに相当)、ACTION2:電子処方箋の仕組みの構築、ACTION3:自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大(上記のPHRに相当))に沿って取り組みを進める今後のスケジュールが厚労省から示されました。

EHR(ACTION1)

 EHRについては、厚労省が現状で想定しているシステムでは、マイナンバーカードを健康保険証として利用して患者の本人確認を行って患者からの同意を得て医療機関等にEHRの全情報の提供が行われる仕組みとなっており、患者側において「この病歴は知られたくない」というニーズがあっても、提供する情報を部分的に選別することはできず、患者はすべての情報を閲覧可能とすることに同意するか、閲覧に全面的に不同意とするかの二者択一の選択しかできないことが説明されました。
 この点については、構成員から、患者へのニーズ調査では「一部参照してほしくない状況がある」との回答が25%もの高い比率であることから丁寧な議論が求められるとの指摘がなされ、厚労省からは、今後、傷病名の区別に基づいた技術的な対応が可能かなど検討し、整理して改めて提示するなどの考えが示されました。

PHR(ACTION3)

 PHRについては、PCやスマートフォンを通じて国民・患者が自身の保健医療情報を閲覧・活用できる仕組みについて、健診・検診データの標準化に速やかに取り組み、対象となる健診等を拡大するため、2021年に必要な法制上の対応を行い、2022年早期から受持拡大し運用を始めるとのことです。

まとめ

 厚労省は、3つのACTION に2022年10月までの2年間で集中的に取り組む方針であり、検討会は、次年度へ向けた必要な予算の確保と法制上の対応に向けた議論を進めるため、年末までに月1回程度で検討会を開催し、ACTIONごとの論点を議論する予定です。
 今回議論のあった患者側での提供情報の部分的選択の可否の問題に表れているように、情報共有の要請と患者の自己情報コントロール権との相克をどう乗り越えるかが、医療情報等の共有に向けての環境整備の根底に横たわる課題といえるでしょう。
 今後の議論の推移を見守りたいと思います。