柄沢好宣(嘱託) (2021年8月センターニュース401号情報センター日誌より)
医療的ケア児支援法の成立
本年6月11日、議員立法で「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が成立しました。
喀痰吸引や人工呼吸器による呼吸管理などの医療的ケアを日常的に必要とする子どもが、保育所や学校などに通う機会を平等に得られるよう、施設の設置者に看護師らの配置を求めることなどが柱になっています。
立法の目的
厚生労働省によると、医療的ケア児は全国で推計2万人にのぼるとされています。
医療的ケア児の健やかな成長のために、当該児童の心身の状況等に応じた適切な支援が必要とされる一方で、保育所や学校での受け入れ体制が十分に整っていないために、児童の付き添いを要する保護者らが離職せざるを得ないケースがあることも重要な課題となっていました。
そこで支援法では、医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止に資することとし、ひいては安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することが立法の目的とされています。
基本理念と具体的な支援措置
こうした立法目的を踏まえ、次の5点を基本理念として、国・地方公共団体や保育所・学校の設置者に対して一定の措置を求めるものになっています。
1.医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援
2.個々の医療的ケア児の状況に応じ、切れ目なく行われる支援
3.医療的ケア児でなくなった後にも配慮した支援
4.医療的ケア児と保護者の意思を最大限に尊重した施策
5.居住地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられる施策
具体的な支援措置としては、国・地方公共団体による保育所・学校等への支援、相談体制の整備、広報啓発、人材確保、保育所や学校の設置者による看護師等の配置のほか、医療的ケア児支援センターを設置し、医療的ケア児やその家族への支援、関係機関等への情報提供や研修を行うこととされています。なお、医療的ケア児支援センターは、都道府県知事が自らこれを行うか、社会福祉法人等を指定することになっています。
国による実態調査も
医療的ケア児支援法の成立を受け、7月22日、内閣府は企業主導型保育所を対象に初の全国的な実態調査を行う方針を決定しました。企業主導型保育所は認可保育所と比較して運用基準が緩いことから、安全に医療的ケア児を受け入れるための課題を把握する狙いがあるとされています。
医療的ケア児に関する社会的課題として、教育を受ける権利という観点から、日弁連が「医療的ケアを要する子どもの保育及び教育に関する意見書」(2018年9月21日付)等が出されているほか、愛知県弁護士会からも「医療的ケア児の教育を受ける権利に関する調査研究報告書」(2019年3月26日付)が公表されています。
支援法が、医療的ケア児にとって、ほかの子どもたちと一緒に学校等で生活できる途を切り開くものとなることが大いに期待されます。