個別審査で除外された脳性麻痺児の家族らが要望書を提出へ

堀 康司(常任理事) (2022年1月センターニュース406号情報センター日誌より)

本年1月からの個別審査の撤廃

 本年1月より、産科医療補償制度が改定され、これまで出生28週~32週の児に対して行われてきた個別審査が撤廃されることになりました。これは、個別審査で用いられてきた出生時低酸素状態を前提とした基準に医学的な合理性が認められないことが判明したことによるものです。

 他方、昨年1月と5月の本稿でもお伝えしたように、こうした合理性のない基準によって過去に補償対象から除外されてしまった児と家庭に対する支援策は全く検討されておらず、放置されたままとなっています。

対象外とされた児の「親の会」が厚労大臣に申入れへ

 こうした現状について、補償対象外とされた脳性麻痺児の家族らで構成される「産科医療補償制度を考える親の会」(中西美穂代表)が、厚生労働大臣と産科医療補償制度を運営する日本医療機能評価機構に対し、2021年12月24日に要望書を提出する予定であると報じられています(本稿執筆2021年12月19日現在。わかやま新報2021年12月16日・女性自身web版2021年12月18日など)。

 同会のウェブサイト(https://mwi86.crayonsite.net/)によれば、同会は脳性麻痺児10人の家族で発足し、昨年10月時点でさらに40人ほどとの連絡をとりあっており、昨年11月からはオンラインでの署名活動を進めているとのことです。

 提出予定の同会の要望書を入手しましたが、この要望書では、2021年6月4日時点で個別審査で対象外とされた児は484人にのぼり、補償が行われないだけでなく、個別の原因分析の対象とされることもないまま、過酷な生活実態に置かれていることが記載されています。同会の会員の実情も事例として説明されていますが、補償された児と同等以上の障害を負っているのに、同制度による補償から除外されたために経済的に厳しい状況に置かれていることがわかります。

制度目的に立ち返って剰余金使途の再検討を

 産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、脳性麻痺発症の原因分析を行って同種事例の再発防止に資する情報を提供できるようにすることで、紛争の防止や早期解決、さらには産科医療の質の向上をはかることを目的として創設されたはずです(http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/outline/purpose.html)。分娩に関連した重度脳性麻痺であるのに、医学的に合理性がないことが判明した基準で過去に除外されてしまった児とその家族に対し、この制度で発生した剰余金を用いて支援の手をさしのべることは、この制度の最大の目的にもかなうことのはずです。

 こうした問題意識に基づく見直しの議論がなされなかったことは本当に残念ですが、まず何よりも除外された児と家庭の声に耳を傾けてその実情を速やかに把握し、改定後の制度と同等の経済的支援を図る方策を皆で考えることが大切です。そして、個別基準で排除してきた事例についても原因分析を実施し、産科医療の質のより一層の向上へと繋げていくことが望まれます。