柄沢好宣(嘱託) (2022年4月センターニュース409号情報センター日誌より)
医療事故調査・支援センター2021年年報
2022年3月17日、医療事故調査・支援センター(一社・日本医療安全調査機構)より、「医療事故調査・支援センター2021年年報」が公表されました。年報は、同センターホームページからダウンロードすることができます(https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=2#nenpou)。
コロナ禍に見る報告件数
年報では、「コロナ禍における医療事故発生報告件数の推移」が報告されています(下図:年報【要約版】・表6-2より引用)。
これを見ますと、感染者数の増大に連動するように報告件数の減少が認められる状況となっています(上部の波形がコロナ第1波~第5波を、下の棒グラフが報告件数の推移を示しています)。こうした推移となっている直接的な原因の詳細は不明ですが、コロナ禍であっても、報告されるべき事案は適切に報告される必要があるはずです。“with コロナ”と言われる情勢の中でも、適切に報告・調査を行うことのできる体制作りが望まれるのではないでしょうか。もちろん、それを個々の医療機関にだけ委ねてしまうのでは限界があります。本邦全体での検討が求められるように思います。
タスク・シフト/シェア可能な業務
①特定行為の実施
特定行為研修を修了した看護師が手順書により特定行為を行うことは従来通り可能です。
次の②~⑦は、特定行為研修を修了していない看護師も可能となります。
②事前に取り決めたプロトコール(事前に予測可能な範囲で対応の手順をまとめたもの)に基づく薬剤の投与、採血・検査の実施
③救急外来における医師の事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づく採血・検査の実施
④血管造影・画像下治療(IVR)の介助
⑤注射、採血、静脈路の確保等
⑥カテーテルの留置、抜去等の各種処置行為
⑦診療前の情報収集
埋まらない格差
医療事故調査制度は、2015年10月に運用が開始されて6年半が経ちますが、各地域・医療機関での運用の格差は未だに残っている状況です。
毎年、年報には「都道府県別人口100万人あたりの医療事故発生報告件数」が掲載されています。全体の平均では、概ね3件/年で推移しているようですが、直近の3年分データ(グラフ)を比較すると、各都道府県における報告状況にほとんど変化がないことがわかります(紙幅の都合上、グラフの掲載は割愛しますが、是非お手元で比較してみてください。過去の年報はこちらでご覧頂けます:https://www.medsafe.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=77)。
また、昨年の本稿(397号 2021年4月)で、医療機関の機能別の報告実績の推移の公開が期待される旨述べましたが、今年の年報では、「特定機能病院における報告回数」として、特定機能病院間での報告実績の差異が示されています。これによりますと、既に4回以上の報告実績をもつ特定機能病院が40病院(全87病院/約46%)あるのに対して、この6年余の間に未だに報告実績のない特定機能病院が11病院(12.6%)もあるというのは、率直に違和感を抱いてしまいます。
これも詳細な原因分析が必要になろうと思いますが、ひとつには、まだ医療機関において医療事故の報告を行うことへの抵抗感があるのではないかと思われます。抵抗なく医療事故の報告がなされる文化の醸成に向けて何が求められるのか、医療事故情報センターとしても引き続き模索していきたいと思います。