堀 康司(常任理事)(2022年9月センターニュース414号情報センター日誌より)
NHKが報じた安全管理医師配置の実情
本年8月14日にNHKは「医療事故防ぐ安全管理の医師 23%の病院で配置されず 名大調査」との興味深いタイトルのニュースを配信しました。この報道によれば、名古屋大学医学部附属病院の長尾能雅教授らの研究グループが厚労省研究事業として昨年3月までの状況について全国約4900の病院を対象にアンケート調査を行ったところ、回答のあった738の病院のうち23%の病院では医療安全管理を担当する医師が配置されておらず、配置のない病院では、医療事故発生時の緊急会議の開催や再発防止策作成の実施頻度が低いことが判明したとされています。
公表されたアンケート調査結果を読み解く
この報道は、医療安全に専門性を有する医師人材養成及び医療機関のリスク量測定に関する研究班(研究代表者長尾能雅医師)が厚生労働行政推進調査事業費補助金に基づいて実施した研究結果を報じたものと思われます。同研究班は2021年2月から3月にかけて全国の110床以上の4916病院を対象としたアンケート調査を実施しており、その結果は令和2年度総括研究報告書の中で公表されています。回答率は14.6%と低めで、回答に応じた病院は医療安全管理に関心の高い施設が多いのではと想像されますが、400床以上の病院178施設の回答に限っても、専従医師(全業務に安全業務が占める割合が80%以上)の配置は28.3%(49施設)、専任医師(同50%以上)の配置は60.1%(104施設)に留まっており、安全管理の司令塔となる医師の配置が、大規模病院でも十分に進んでいない現実があることが明らかとされています。
専従・専任医師を欠く病院では事故調査は低調
この報告書では、こうした安全管理者の配置状況と医療安全に向けた取り組みの濃淡に相関関係が認められることが細かく分析されています。医療法上の調査実施件数や調査対象を判断するための会議開催件数についても、安全管理担当医師の配置のない病院や、配置があっても兼任(業務割合50%未満)に留まる病院では、専従医師や専任医師の配置された病院との間で有意差が認められたとされています。こうした傾向は小規模病院(200床未満)を除外してもほぼ同様です。
(左:全病院 右:大規模及び中規模病院)
こうした結果は、医療安全管理の側に軸足を置いた医師が配置されているかどうかによって、二極化が進んでいる可能性を強く示唆するものです。
これ以上の二極化を防ぐために
本来、医療事故調査は医療法の定めに基づいて実施されるべきであり、安全管理担当医師の配置状況で実施件数が左右されるのはおかしいはずです。これ以上の二極化を防ぐためにも、専従・専任医師の配置を一層促進するとともに、病院の恣意的判断で必要な調査を開始しないことが許されてしまう現在の制度の見直しを速やかに進める必要があると考えます。
【参 考】
■医療事故防ぐ安全管理の医師 23%の病院で配置されず 名大調査 2022年8月14日 6時49分
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220814/k10013769321000.html
■令和2年度総括研究報告書
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/148858