柄沢好宣(嘱託)(2022年12月センターニュース417号情報センター日誌より)
一方親権者の同意のない手術に賠償認める
子(3歳)の手術にあたって、当時親権者であった自分への説明・同意がなかったとして、子の父が病院側に慰謝料の支払いを求めて提訴していた事件について、大津地裁が11月16日に5万円の限度で父の請求を認めたとの報道を目にしました(https://mainichi.jp/articles/20221116/k00/00m/040/364000c)。
報道によれば、手術後に両親の離婚が成立し、母が親権者となったものの、手術当時はまだ離婚に至っておらず、父にも親権が帰属していたとのことです。なお、父は子の出生後間もなく別居状態となり、家庭裁判所からも面会禁止とされていたそうで、このあたりの事情は母から病院側にも伝えられていたようです。
判決は、未成年者に対する手術は親権者が共同で同意することが原則であるとの判断を前提に、家裁による面会禁止も父の親権としての同意権を奪ったものではないとして、病院が父への説明・同意を経ずに手術を実施したことは違法であるとしたとのことです。
親権と医療同意の関係性
今回のように、親権と医療同意が問題となる場面として、親権者による医療上のネグレクトが疑われるようなケースは、これまでにもしばしば問題となってきました。平成23年民法改正により親権停止の制度が導入されて以降は、これによって医療を受けられていない未成年者に医療を提供することも可能となっています(親権停止が認められた例として、東京家審平成27年4月14日判タ1423号379頁、東京家審平成28年6月29日判タ1438号250頁等)。
他方で、医療的決定について親権者にも一定の権利があることを前提としつつも、患者本人の生命・健康を害することが明らかな場合などでは、親権者の上記権利も後退せざるを得ず、親権者への説明・同意なく医療行為を行うことも可能であると指摘する見解もあります(「医療行為に対する『同意』と親権―医療ネグレクトにおける法的対応を契機に」米村滋人/法学vol.83 no.4 2019)。この見解は、医療を受けることについて最も利害を有しているのは患者本人であることを前提に、患者の推定的同意の観点で解決しようとする考え方であると思われます。
近時、離婚後も共同親権とすべきという議論もみられるところですが、離婚後には適切に親権を共同行使できないケースも想定されます。今回の報道にあった事案も、様々な個別事情があったものと思われますが、医療同意が誰のために行われるものであるのか、さらに突き詰めれば、その医療は誰のために行われるのかといった点をより重視するのであれば、また違った結論もあり得たのかもしれません。
来年に向けて
早いもので、もう12月号の原稿を執筆しております。本年も様々な制約がある中ではありながらも、皆様のご理解・ご協力により、これまでどおりに活動を続けることができました。
皆様に1年間の感謝を申し上げますとともに、来年もまた変わらぬご指導・ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。