堀康司(常任理事)(2023年5月センターニュース422号情報センター日誌より)
子宮収縮薬をテーマとしたのは3回目
本年3月27日付で、産科医療補償制度再発防止委員会は「再発防止に関する報告書」を発行しました。2009年1月から運営が開始された同制度では2011年以降、毎年1回再発防止に関する報告書を発行しており、今回が第13回となります。
今回の報告書の分析テーマは「子宮収縮薬について」です。子宮収縮薬が取り上げられるのは第1回、第3回に続いて今回が3回目です。
誘発・促進の適応自体が不明のものも
今回の分析では2015年4月以降に出生した満37週以降の単胎の分娩での脳性麻痺事案481件が対象とされました。対象例中、子宮収縮薬使用例は150件(31.2%)で、日産婦学会周産期統計(2020年)における一般分娩での使用頻度(30.1%)と比較して、差はなかったとされています。
150件における使用目的の内訳は分娩誘発84件・分娩促進66件であり、適応自体が不明であったものが分娩誘発で5件(6.0%)、分娩促進で8件(12.1%)と、いずれも少なからぬ件数に上っています。
使用例の75%が「問題事例」
今回の分析では、150件のうち、原因分析報告書の「臨床経過に関する医学的評価」において子宮収縮薬に関して「一般的ではない」「基準を満たしていない」「医学的妥当性がない」等の指摘がなされた事案が実に113件(75.3%)に上ることが明らかとされています。
指摘内容の内訳では、投与量・増量法57件(38.0%。全例がオキシトシン)、児心拍異常出現時の用法52件(34.7%。胎児機能不全と考えられる状況での投与継続・増量等)、分娩監視装置連続装着26件(17.3%)、子宮頻収縮出現時の用法22件(14.7%。頻収縮出現状況下での投与継続・増量等)となっています。
また、子宮頻収縮の出現頻度は、子宮収縮薬使用なし事例で11件(3.3%)であったところ、使用あり事例では30件(20.0%)と顕著に高くなっており、使用あり事例で子宮頻収縮出現時の用法に対して指摘がなされたものが22件(73.3%)を占めたことも明らかとされています。
こうした分析結果からは、残念ながら、子宮収縮薬による分娩事故の医療過誤事件において従来から指摘されてきた典型的な問題点が、今なお臨床の現場では改善されないまま繰り返されていることが見てとれます。
インフォームド・コンセントにも深刻な問題が
しかも、子宮収縮薬の使用に関する文書での説明・同意取得について指摘がなされたものは47件(31.1%)に及んでおり、多くは口頭のみでの説明であったとされています。
子宮収縮薬使用あり150件の原因分析報告書に記載された「家族からみた経過」(全79件)の中にも、子宮収縮薬使用の意思決定に関するものが19件(86.4%)含まれていました。その中には、同意なしに使用されたとするものが4件(うち1件は「何度も拒否したが応じてもらえなかった」とするもの)含まれており、これら以外にも「投与すれば、早く生まれる程度の説明しかなかった」「リスクについては一言も説明がなかった」「内服できないと訴えたが、医師より厳しい言葉を言われ、やむを得ず服薬した」「呼吸困難になり中止を訴えたが、中止してもらえなかった」「使用は助産師一人での判断だった」とするものがあったことが明らかとされています。
子宮収縮薬の使用にあたって十分なインフォームド・コンセントが行われていない事例があるということも、医療過誤事件で以前から何度となく指摘されてきましたが、現在もなおこうした不適切な具体例が存在することは極めて残念です。
不適切な使用をただちに改めるべき
今回の分析結果は、子宮収縮薬の不適切な使用が母児に重大な影響を与えることをあらためて示すものです。
こうした使用がただちに改められるよう、お産を扱うすべての医療機関が、子宮収縮薬の用法についてガイドライン等を遵守し、文書に基づく正しい説明と同意を行うことができるよう、今回の報告書を熟読し、理解を深めるべきです。