産科医療補償制度の対象外とされた児に対する特別給付の検討がスタート~早産児の脳性麻痺の原因分析につなげる事業とするために

堀康司(常任理事)(2023年9月センターニュース426号情報センター日誌より)

自民党が厚労大臣に特別給付事業を提案

 本年7月5日、自民党社会補償制度調査会医療委員会は、産科医療補償制度の個別審査で対象外とされた児に対して追加給付を行うよう、加藤勝信厚生労働大臣に要請しました。

 2021年1月5月及び2022年1月の本稿においても紹介したとおり、過去の同制度では、在胎週数33週以上かつ出生体重2000g以上という一般審査基準を充たさない場合には、分娩時低酸素状態を示す所見に関する個別審査が必要とされており、この個別審査の対象とされた児の半数近く(400名以上)が給付対象外とされていました。

 しかし2021年12月に日本医療機能評価機構が提出した報告書では、個別審査基準に十分な医学的合理性を確認できなかったことが指摘され、2022年1月からは、在胎週数28週以上であれば個別審査を経ずに給付対象とされることとなりました。

 今回の自民党からの要請は、過去に個別審査で給付対象外とされた児に対し、同制度の剰余金を用いて1人あたり1200万円の特別給付事業を行うことを厚労大臣に求めるもので、今後厚労省と同機構は、再来年1月からこの特別給付を開始できるように具体化の検討を進めるものとみられます。

給付水準の差を埋める努力を

 過去に個別審査で切り捨てられた児と家族を放置することなく、実質的な内容を伴う特別給付事業が開始される方針となったことは、同制度の目的にかなうものであり、望ましいことと言えます。

 ただ、過去の個別審査での審査基準に医学的合理性が伴わないことが判明しており、過去の個別審査の結果によって児への給付内容に大きな差違が生じることは不合理です。

 今後、個別審査で認定を受けた児に対する給付水準(1人あたり3000万円)との差を埋められることができるよう、さらなる検討が進められることが望まれます。

早産児脳性麻痺の原因分析につながる事業設計を

 現時点では、この特別給付の対象とされる児については、脳性麻痺発症の原因分析を行わない方針が示されているようです。

 しかし、本年2月1日に開催された同制度運営委員会では、新生児医学の専門家である楠田聡委員(東京医療保健大学大学院臨床教授)が、早産になればなるほど脳性麻痺の頻度が高くなっており、ピンポイントで分析しても原因を特定できない例が多く、早産と正期産児における比率や、低体温療法などの交絡因子なども加味しながら、様々な側面から検討することの重要性を指摘しています。こうした指摘からも明らかであるとおり、在胎週数の短い児の脳性麻痺の防止に向けた原因分析は、同制度上でも特に重要な医学的な検討課題として位置づけられます。

 過去に個別審査で支給対象外とされた児は、いずれも早産で出生しています。今後特別給付を受けることとなる児とその家族から、実際の分娩経過に関する詳しい情報の提供を受けることができれば、楠田委員が指摘するような疫学的検討を、より充実した形で実施することが可能となるはずです。

 今後の特別給付事業の具体化の過程では、児や家族に対する情報提供の打診方法の検討や疫学的調査に関する研究費の確保等も含む形で、真の原因分析につながる制度設計が進められることを期待したいと思います。