股関節手術を契機とした出血にかかる死亡事例の分析 ~医療事故の再発防止に向けた提言第18号

柄沢好宣(嘱託)(2023年10月センターニュース427号情報センター日誌より)

提言第18号を公表

 2023年9月、医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)から、医療事故の再発防止に向けた提言の第18号として、「股関節手術を契機とした出血に係る死亡事例の分析」が公表されました。

 同センターから提言が公表されるのは、今年に入ってからは、第17号「中心静脈カテーテル挿入・抜去に係る死亡事例の分析―第2報(改訂版)」に引き続き2件目です。

提言の概要

 今回の提言は、股関節手術を伴う出血による死亡20事例(疑いを含む)を対象に分析した結果としてまとめられており、20事例の内訳は、大腿骨接合術が10例、人工骨頭置換術が4例、人工股関節全置換術が6例となっています。

 この対象とされた20事例の特徴としては、次の4点が指摘されています。

 

・低体重の事例は、14例(30kg台が5例、40kg台が9例)であった。

・ドリルやスクリューなどの手術操作による血管損傷を認めた(疑いを含む)事例は、9例で あった。

・ショックインデックスを算出すると、全ての事例の経過の中で、「1」を超えていた。

・術後24時間以内の死亡事例は、15例であった。

 

 こうした特徴が確認されたことを踏まえ、次の6つの提言が取りまとめられています。

 

提言1 出血リスクの把握と術前準備

提言2 術前に共有する輸血開始の目安

提言3 目視困難な血管を損傷するリスク

提言4 術中の循環血液量の評価

提言5 手術室から帰室する際の画像確認

提言6 術後の出血性ショックへの迅速な対

    応

 

 特に提言3~6の解説も見ますと、股関節手術の場合、血管損傷を生じた場合でも、術野で実際に出血している状況を目視することができないことがあるものの、目視した結果のみで血管損傷や出血の状況を評価することなく、その徴候を定量的・客観的に評価することの重要性を示唆しているものと理解できます。

医療の現場で活用しやすい形に

 今回の提言では、提言書(冊子)のほかに「提言の一覧」が作成・公表されています

https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen18_list.pdf)。

 これまでにも、第6号「胃管挿入」が公表された際には、マンガでわかりやすく解説した資料も公表されていますが、今回の提言の一覧も上記のような特徴や提言の骨子が片面・1枚の資料としてまとめられているので、適宜の場所に掲示するなどの方法で活用しやすい形になっているように思います。

 こうした地道な取り組みの積み重ねにより、医療がより安全なものとなっていくことを願って止みません。