大学病院の医師の教育・研究と労働時間

柄沢好宣(嘱託)(2024年2月センターニュース431号情報センター日誌より)

通達の改正

 これまで、「医師の働き方改革に関する検討会報告書」(平成31年3月28日)を踏まえ、医師・看護師等の宿日直基準を明確化し、また、医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方を示すため、「医師、看護師等の宿日直基準について」(令和元年7月1日付・基発0701第8号)及び「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(同日付・基発0701第9号)の各通達がそれぞれ発出されています(以下、後者の通達を「労働時間通達」とします)。

 この両通達の運用に関して、「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用にあたっての留意事項について」(令和元年7月1日付・基監発0701第1号)が別途発出されていましたが、本年1月15日付(基監発0115第2号)でその一部が改正されました。

改正のポイント

 今回の改正では、「大学の附属病院等に勤務する医師の研鑽について」という項目が新設され、大学の附属病院等に勤務し、教育・研究を本来業務に含む医師(以下、単に「大学病院の医師」とします)の教育・研究や研鑽と労働時間に関する考え方が示されるようになりました。

 労働時間通達は、「所定労働時間内の研鑽」については当然に労働時間に該当するとした上で、「所定労働時間外の研鑽」については、診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ、上司の指示によらずに行われる限りは労働時間に該当しないとの考え方を示しています。労働時間通達では、その具体例として「新しい治療法や新薬についての勉強」、「学会や外部の勉強会への参加・発表準備」、「論文執筆」等が挙げられていますが、大学病院の医師については、これらの行為も一般的に本来業務として行っていることから、今回の改正によって、大学病院の医師の場合にはこれらの教育・研究も労働時間通達で言及されている「診療等の本来業務」に含まれるとの考え方が明示されました。

 また、大学病院の医師については、こうした本来業務のほか、それに不可欠な準備・後処理として教育・研究を行う場合(医学部等の学生への講義、試験問題の作成・採点、学生等が行う論文の作成・発表に対する指導、大学の入学試験や国家試験に関する事務等)も当然に労働時間になると具体化されていますし、本来業務として行われる教育・研究と直接の関連性のある研鑽についても、所定の労働時間内・場所または上司の指示で行う場合には、労働時間に該当するとされてもいます。

本来業務と研鑽の線引き

 大学病院の医師の場合、労働時間通達で「研鑽」の具体例として挙げられていることが本来業務として行われているため、研鑽と本来業務の区分が困難になることが想定されます。そこで、今回の改正では、こうした研鑽と本来業務の関連性について、当該医師と上司の間での円滑なコミュニケーションが重要であることが指摘されています。

 もっとも、実際問題として、ここで想定されているような円滑なコミュニケーションがどこまで可能なのか、それをどうやって確認していくのかなど、実務的な課題はなお残されているようにも思われます。医師の働き方改革は今年4月からはじまりますが、今後も引き続き議論されるテーマではないでしょうか。