「美容医療の適切な実施に関する検討会」、設置される

松山健(常任理事)(2024年7月センターニュース436号情報センター日誌より)

検討会の設置

 武見厚労相が2024年6月14日閣議後の記者会見で、トラブル相談が急増している美容医療の適切なあり方を検討するための専門家検討会を設置することを表明し、厚生労働省は、令和6年6月27日に、「美容医療の適切な実施に関する検討会」の第一回会合を開催することになりました。

美容医療相談件数の急増

 (国民生活センターより)

 消費者庁によると、美容医療に関する消費生活相談件数は急増し、2022年度に3798件、23年度には6264件に上り、2019年の相談件数が2022年には約2倍になり、2023年には、3倍に急増しているという急激な伸び率です。

 2023年4月には、美容外科で顔の脂肪吸引を受けた男性が、翌日に気道閉塞による窒息で亡くなった事例も報告されています。

HIFU問題が直接の契機

 今回の厚労相の記者発表の1週間前の6月7日付で厚労省は「HIFUに関する監視指導の徹底について」と題する通知を発出しています。

 「HIFU」(ハイフ)は、「切らないたるみ治療」として人気の、皮膚のたるみなどに効果があるとされる高密度焦点式超音波照射機の名称です。これまで、非医師の施術者によっても施行され、とくにエステサロンやセルフエステで、火傷、顔面部の施術で急性白内障が生じたり顔面麻痺の症状が発生したりといった被害も報告されていました。

 今回の通知の内容は、HIFUの実施は医師に限るというものです。

 2015年から国民生活センターなどへ、HIFU施術の苦情が増加し、火傷等のトラブルが多発したため、消費者庁の消費者安全調査委員会が緻密かつ徹底的な事故調査を実施し、エステサロンやセルフエステでのHIFU施術でも、美容クリニックと同等の照射出力の高い機器が用いられ、あるいは、信頼性の低い機器が使われていたり、機器を安全に扱うための施術者の教育が不十分であるという実情が判明し、消費者庁は、これらの実情の報告とともに、HIFU機器の人体への影響を及ぼす性能は医療機器と評価すべき水準であり、施術には解剖学の知識が必要であり、医療行為として「HIFU施術は人体に危害を及ぼすリスクが高く、エステ業界に注意喚起が必要」という「意見書」を、2023年3月29日に厚労省に提出し、これを受けて、本年6月の通知の発出、検討会の設置に至ったという経過です。

自由診療

 この点、保険診療の場合は、地方厚生局や診療報酬の審査支払機関により適切な診療であるか確認が行われていますが、自由診療の場合、第三者が確認する制度が存在しません。

 美容医療の大部分は健康保険がきかない自由診療であるため、治療の費用はクリニックによって異なり、現状では、トラブルがあった際に診療費用や診療内容の妥当性を審査する制度はありません。この点で、検討会には、不適切な自由診療による身体的な被害、経済的な被害の発生を防止する仕組みの検討が期待されます。

まとめ

 ここ数年で、とくに若年層を中心に、美容医療に対する心理的なハードルが低下し、また、男性の美容への関心の高まりも相まって、美容医療の利用者が増大していることもトラブル増加の要因のひとつと考えられます。

 利用者側の意識がこのように深刻度が小さく、身体に侵襲を伴う医療を受けるという自覚が乏しいだけに、被害がこれ以上増大する前に適切な対応が必要なのは言うまでもありません。

 また、第一回の会合では、議題のひとつとして「検討会のスコープ」射程範囲が挙げられています。

 近時、美容クリニックが糖尿病治療薬を自由診療で「運動や食事制限のいらない毎日注射するだけのやせ薬」と謳って集客してオンライン診療で処方するという問題も指摘され、厚労省では医療広告ガイドラインの改訂で対応を行いますが、美容医療に関しては、解決すべき課題が山積しており、どこまでを検討会の議論の対象に組み込むのかも重要なポイントと言えるでしょう。今後の検討会での議論を見守っていきたいところです。