産科医療特別給付事業の事業設計が固まる

堀康司(常任理事)(2024年9月センターニュース438号情報センター日誌より)

個別審査で対象外とされた児の救済へ

 本年7月26日、日本医療機能評価機構の産科医療特別給付事業(以下特別給付事業)事業設計検討委員会は、同事業の制度設計を示した報告書を公表しました。

 これは、2022年1月に産科医療補償制度(以下補償制度)の補償対象基準が見直されて個別審査が廃止されたことをきっかけに、過去に個別審査で補償対象外とされた児の救済を要望する保護者の声が上がったことを受けて、2023年7月に補償制度の剰余金を活用する形での救済事業を自民党が厚労大臣に要請したことを踏まえて、厚労省からの委託業務として同機構が特別給付事業の事業設計を検討した結果が、報告書としてとりまとめられたものです。

剰余金による救済範囲の拡大の合理性

  同報告書によれば、2021年以前に出生し、従来の補償基準では個別審査によって補償対象外とされる脳性麻痺児に対して一時金1200万円を一括して支払うという内容の特別給付事業が、同機構を窓口として2025年1月から開始されるとのことです。

 補償制度自体が紛争防止を主眼として創設されたという経緯を持っているため、原因が分娩に関連するか否かによって脳性麻痺児が区分されるという制度の性格が特別給付事業に引き継がれてしまってはいますが、補償制度の剰余金は脳性麻痺児の生活を支えるために集められたお金ですので、様々な関係者の努力によって特別給付事業が創設されて、現に障害を抱えている脳性麻痺児の生活を支えるために用いられることは、補償制度のあり方に照らしても合理的なものであり、補償制度の社会的意義自体をも支えるものとして評価できると思います。

集合的データ分析の際には個別事例情報にも着目を

 同検討委員会では、当初より、複数の委員によって、特別給付事業の給付対象者についても何らかの原因分析を行う必要性があることが指摘されてきました。残念ながら、今回の報告書においては、原因分析を実施する人的リソースや過去の分娩に関する資料収集の限界等を理由として、補償制度のような個別原因分析は実施しないとされてしまいましたが、産科医療の質の向上に資するよう、対象者のデータを集合的に分析し、脳性麻痺発症のリスク因子等をとりまとめた報告書を公表するためのプロジェクトチームを設置することが明記されました。

 検討委員会の議論でも指摘されたように、今後特別給付事業の対象となる児であっても、過去に産科医療補償制度に申請して個別審査が行われている等、分娩経過等に関する医療情報がすでに確保されているケースは少なくありません。

 今後データ分析を行うプロジェクトチームでは、集合的な分析結果をも踏まえつつ、リスク因子を含む代表的な事例については現存する資料を活用して個別の経過まで着目していくことによって、産科医療の質向上につながるより一層具体的な情報を社会に発信できるよう、詳細かつ緻密な分析が実施されることを期待したいと思います。